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最近瀬戸内が好きすぎてやばいです。
朝起きたら、夜寝る前、考えすぎです。


今日はずっとあたためてた瀬戸内の小説でも。
長くなりそうなので分けます。










事が起きたのはつい一月程前の事。
毛利家、家臣内での謀反が起こったのだった。
家臣の内に間者がいる、ということは元就自身知っていたことだった。
寧(むし)ろそれすらも利用した策を練っては戦で勝利を納めていたのだが、どうやらその間者は毛利家に私怨があるようで、遂には他の元就のやり方に強い反発を覚えていた者たちにも呼びかけ、毛利家は一国を巻き込む内部分裂を起こした。


「同盟組んで欲しい?同盟じゃなくて護衛役の間違いだろ?」
胡坐(あぐら)をかいて酒を食らう大柄の男は、元就からの使いに明らかに凄(すご)んだ表情と声で脅す。
機嫌が悪いというのが、その場にいた他の者達にも一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。
「今日の内容、これまでの多くの無礼をお許し下さい。毛利の力が内部で対立したことにより、以前の半分にまでなってしまった話は御存知でしょうか」
「んなもん知ってるに決まってんだろ」
随分と辛辣(しんらつ)な物言いに、他の元親の仲間たちも一切何も口出しをせずに、ただただその場の様子を見つめていた。
常に賑やかなこの城も、今はしん、と恐ろしいほどに静まり返っている。
「元就様は態勢を立て直すまでは確実に同盟を組んでおきたいとの事です。その後も中国と四国ではそのまま関係を続けていきたいとの事で」
「そっちはそれで得かもしれねえが、四国に見返りはあんのかよ」
いくら何でも都合良さすぎだろ、と元親は吐き捨てるように付け足した。
「人質をこちらへ、一人寄越すとの事で御座います」
「話になんねぇな」
「いえ、それが……」
それまで単調に話していた使いが、急に話し辛そうに口籠(くちごも)ったのが元親としてはそれまでの話があまりにもありきたりでつまらないものだった故に、無意識にも興味を引かれ、そのまま盃(さかずき)を置いて使いの方に視線をやった。
「人質は元就様ご自身に御座います」
とても言い辛そうに、寧(むし)ろ惜しみが出ているとも言える言い方で、言い切る。
その場の雰囲気が一瞬で変わっていった。
元親は眼を見開き、その子分たちは互いに顔を見合わせる。
「………今、なんつった?」
元親自身も、状況を飲み込むのに多少の時間がかかった。
大将本人が人質なんて、まずあり得ない。
聞き返す元親に、今度ははっきりと腹をくくったかのように使いはまた言い切る。
「はい、ですからに、元就様が人質で」
「遂に血迷ったのか、中国の智将も」
驚いて呆気にとられたままの元親に、膝立ちをしていた使いは急に体勢を変える。
畳(たたみ)に両手を突き土下座をして、もう縋る思いだったのだろう、元親に悲願する。
「それ程に事態は深刻という事を、どうか視野に入れて頂いて、誠(まこと)勝手ながら急ぎの答(こたえ)を出して頂きたいのです」
(毛利のプライドもあったもんじゃねぇなぁ……)
その様子に、元親はバツが悪そうに頭をかいた。
こういう雰囲気は好きじゃない、こっちの調子が崩れる、と心の内で愚痴を吐く。
そうした内に、誰も音一つたてない時間がほんの少しだけその場に流れた。
使いにとっては嫌な時間だった、全身にじんわりと汗をかくような、そんな感覚がする。
あまりにもしんと静まり過ぎてて息苦しく、気味が悪かった。
その間にも、元親はつらつらと考える。
毛利の所は家臣が忠実だと有名だ、それ故に謀反などがあり得るか?
実際に、元就はよく情報操作をし、嘘の情報を流しては自らの策に陥れた事が幾度かあったらしい。
だとしたら今回のは、こんな突然現れた使いの者の言葉をそのまま鵜呑みにし、頷いてもいいのだろうか。
考えれば考えるほど、深みにはまっていく。
元来、元親は人を疑うということはあまり好きじゃない、まずは人を信じる事から始めようとする。
裏切られたら、話はそこから考えよう、と。
全くもって、元就とは正反対の性格だった。
考えるのがもう煩わしい、と言わんばかりに元親が口を開く。
「…………同盟、組んでやってもいいぜ。その代り、中国の様子をちゃんと見てからな」
誠ですか、と土下座のまま使いが今にも飛び跳ねそうな反応をしたのに元親はまたバツが悪そうな表情をした。
(……こういうのは、嫌いだ)
それでも承諾(しょうだく)しちまうのは、なんなんだろうな。
元より世話焼きな性格であることは承知の上だが、と付け足して、元親は眼を伏せる。
こうして元就は、西海の鬼の人質となった。





「ようこそ、なんて言葉を使う状況でもねえよな。…家臣の反逆により、敵対してた俺んとこに人質になるんだもんなぁ」
元親自身、実は中々緊張の日であったのだった。
あれだけ激戦を繰り返してきた元就が、こうもあっさり自分の懐に人質として来るなど考えたこともなかったからだ。
実際に中国へ向かえば、やはりそこは使いが言っていた通り、見るに堪えなかった。
元親はその様子に思わず息を呑んだ。
自分の国もそうなってしまったら、と一瞬でも考えた。
部下達に限ってそんな事はないだろうが、と元親は考えたが、その光景は実に恐ろしかった。
そして元就を迎える事になった訳だが、緊張している元親とは打って変わって元就は実に冷静であった。
それが元就の常であるのだろうが、この状況を全て受け入れきれているその姿勢に、また元親は圧倒される。
食えねえ。
鬼でも食らえねえんだろうな、と心よりそう感じた元親はまじまじと今一度元就の顔を見つめる。
その元就の姿は、四国に船が着いた時には既に後ろ手で腕が拘束されていた。
別に元親の子分達が迎えに行ってそうしたわけではない、元就の意志で部下にやらせるよう自ら指示したのだろう。
「此度(こたび)の件に快い返事、有り難く」
表情に何一つ映さないまま、淡々(たんたん)とそれだけ述べては元親を見上げる。
元親は、またもや呆気(あっけ)にとられてしまう。
「食えねえなあ」
遂(つい)には声にまで出してしまった事に、後から修正を入れようとするが何も思いつかず、元就も元就で特に反応を見せなかったので元親はそのまま話を続けた。
「まず腕を楽にしていいんだぜ」
思いもしない元親の言葉に、元就の中の時が一瞬止まる。
この男は自分の立場とこの状況を理解しておるのか、と。
「そなたの申す意味がよう理解できぬのだが」
「だから、アンタのその後ろの、解けよ」
顎(あご)を動かし、視線で元親の言葉の指す場所を元就に伝える。
元就は無表情と言えど、多少の動揺を含んではいた。
何も言わない元就に、せっかちな元親は無理やり元就を後ろに向かせると、頑丈(がんじょう)に結ばれている腕を解いていく。
堅くて手じゃどうしようもない場合は、自慢の獲物で切り裂いてようやく解ききった。
自らの部下に頼んだとしても、徹底しすぎている。
これが毛利のやり方か、と改めて元就の生真面目(きまじめ)さに感心するや否(いな)や、振り返った元就がすぐに、
「貴様は温(ぬる)い男ぞ」
と言い放ち、きっと睨むも、人質である元就がそんな事をしたところで威厳はあるが、勢いはまるで感じ取られない。
だから、少しばかりにやけると、元就は一層(いっそう)不機嫌そうな顔をした。
「ようこそ、鬼ヶ島へ」
今度は少しこの場を楽しむように元親はしたり顔でそう言ってのける。
















続きます。
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